- 催事名
- 関西二期会 第79回オペラ公演「魔笛」
- 開催場所
- あましんアルカイックホール
- 開催日時
- 2013年11月9日10日
- 主催
- 関西二期会、尼崎市総合文化センター
- 担当会社名
株式会社ハートス
- 担当範囲
-
- イベント
関西二期会 / 尼崎市総合文化センター
作品名:「魔笛」
(公社)関西二期会、(公財)尼崎市総合文化センター主催
関西二期会 第79回オペラ公演
「魔笛」の照明デザインに関して:受賞者 西川佳孝
「魔笛」といえばとても有名なオペラで、関西二期会でも過去に7回の上演履歴がある程の作品ですが、個人的には数回観劇した程度の経験しか無くて照明デザインを担当させていただくのは今回が初めてでした。
今公演は演出家と装置家(衣裳デザイン兼任)をそれぞれドイツ人が担当することになりました。
お二人とも女性で、ドイツと日本のハーフなのですが、生まれも育ちもドイツで日本語は話せないということでした。
その為、伝統的に日本でよく目にするものとはかなり違った発想での演出スタイルとなりました。
最初の打ち合せで出てきたキーワードは「忍者」「十二単」「チャンバラ」「障子」「畳」などといったもので、日本人スタッフ一同大いに戸惑ったのをおぼえています。(念のため。公演は原語のドイツ語での上演です。)
演出家は『ドイツでは皆が知っている有名なおとぎ話なので、子供でも大人でもだれもが飽きずに終幕まで楽しめる作品にしたい』と説明してくれました。(日本人的には「浦島太郎」のような感覚なのでしょうか?)
打ち合せを重ねていく過程で細部は少しずつ変わってはいきましたが、最終的には「魔笛」の元々の設定(よく目にする様な)とはまったく違った作品に仕上がりました。
舞台装置は劇場の素舞台に蛍光グリーンのガムテープを張った床(畳を表現しているそうです)に「うろこ模様」の紗幕とドロップ(江戸時代の着物の柄だそうです)と「天まで伸びている塔」が基本となっています。
床には奈落から登退場できる様にマンホールが仕掛けとしてあります。
それに加えて可動式のパネル(障子のイメージ)を出演者が移動させてエリアを区切ったりするという構成です。
他には凧あげをする仕掛けの凧と絡んだ状態の凧(共に蛍光色で統一)という簡素な装置です。
装置家からのオーダーは、ひとつは蛍光グリーンテープが暗いシーンでもぼんやりと浮き上がった様に見える工夫が欲しいというもので、もうひとつは「塔」をシーンによりさまざまな表現ができる様に照明で工夫して欲しいというものでした。
衣裳に関しては、最初は帝国軍人風のザラストロだったり十二単を着た夜の女王だったりしたのですが、打合せが進むに連れて現代服のバリエーションの方向にアレンジされていきました。最終的には、白タキシードのザラストロだったり赤いコートを着た夜の女王だったり・・・やはり既存の「魔笛」ではないところに落ち着きました。
演出家・装置家ともに今公演で初めてご一緒することになりました。
そのため打合せを念入りにしたかったのですが、稽古日程の遅れの影響もあり劇場入り寸前までしっかりとした打合せはできませんでした。
ただし、稽古を拝見していても演出テーマは明快で、照明として表現するべき内容は明確に理解できたので照明デザインをするうえでは迷ったりすることはありませんでした。
照明デザインのスタート時のアプローチとしては、装置や衣裳のデザインと統一するというコンセプトのもと、写実的な照明ではなく抽象的な照明でなおかつできるだけシンプルにしようという想いで仮図面の作成を始めました。
仕込み内容は、オーダーを受けて蛍光グリーンテープの為にブラックライトと#71を多めに用意しました。
またシンプルにという事で、全体的にカラーフィルターの種類を出来るだけ減らすこと、各シーンではなるべく同時に点灯しているライトの数を減らしてシャープな印象を作ることをイメージして準備を進めました。
仕込み直前というタイミングでようやく演出家・装置家と照明に関する打ち合せをすることが出来ましたが、その時点では既に自分なりのアイデアを入れた図面は完成していました。
席上、演出家から「ドイツにはLee#201というカラーフィルターがあるが、今回、もしも日本でも用意できるのであれば使って欲しい」というアイデアを提示されました。
#N/CとLee#201を使って対比するという構成は当初から自分のアイデアの中にあって、それを基にした図面を見せたところ一転して打合せの流れがスムーズになり、舞台監督がニヤリとしていたというエピソードがありました。
その時点まで具体的な打合せが無かったのに同じことを考えて進んでいるという事もあるんだなと不思議な感触でした。
図面もほとんど変更することなく仕込みに臨みました。
プロットに入っても作った明りに対しては大きな変更はかからずに細かい修正をしていくというスタイルで進行していきました。
(そのエピソードもあってなのかどうなのか・・・?)
明りを作っていく上での大きな方向としては、ザラストロの世界と夜の女王の世界との対比を主軸に組み立て、必要に応じてふたつのテーマを混在させること、さらにそのシーンごとに表現すべき演出内容をふまえて効果的に出演者と装置を見せるように細部のバランスに気をつけてデザインすることに集中しました。結局は、#N/CとLee#201とPC#71の組み合わせだけでほとんどのシーンを作ってしまいました。
(予備として色々なものを仕込みましたが使いませんでした。)
演出家からは「スポットライトでシャープエッジなものがあり、主張しすぎていて良くない」とダメ出しを受けたので、シャープエッジなものはすべてソフトに変更しました。
今回はさらに、シーン毎の明るさによる照明演出にトライしました。
劇場の最後部座席を基準にして、ぎりぎり視認できる様な暗さからまぶしいくらいの明るさまでレンジを広く使うことを意識しました。
それぞれのシーンのテーマにそって明るさを決めて、トータルして観劇した場合に各シーンが意味する内容をさらに明確に表現したいという意図からこのようなことをしてみようと考えて意図的にデザインに取り入れてみました。
さらにシーンの中でも同様の考え方を取り入れて、対象物の明るさによっての演出表現と奥行き感を意識して個々の明るさを決めていきました。
意図的にしすぎると見づらくなる恐れがあるので、時間軸にも気をつけながら総合的にバランスを取っていきました。
(肉眼で分かるような調整しかしていないので、ビデオ・写真では良くは分からないかもしれません。)
今回の公演を終えて、さまざまなことを学ぶことが出来ました。
一番大きな収穫は、シンプルに考えるという事でした。
「シンプル イズ ベスト」という言葉はよく耳にしていて分かったつもりでもいましたが、今回の公演でさらに深く実感できた様な気がします。
株式会社ハートス